Chapter.13 都市バス2〜京都編〜 2004.8.20

 またバスに乗った。

 今度の冒険は京都市営バスだ。

 先日展覧会の搬入のために京都に行った。搬入と言っても事前に作品は宅急便で送ってしまっていたので、バッグひとつだけのお気楽な旅だ。
 久しぶりの京都ってことだし、観光などでもして春の京都を堪能してこよう。ひとり旅の京都なんてのも、情緒があって素敵だ。京都の街をひとりで静かに歩くなんて、何かただならぬ過去を背負っていそうで悩ましげな雰囲気がたまらない。
 学生時代からの大恋愛の末、この春ようやくゴールインというはこびになったが、式の前日に彼が交通事故で死亡。失意のどん底に落とされたクミコは突如行方をくらまし、見知らぬ街へひとり旅に出る。
 そんなエピソードも語られてしまうほどひとり旅というのはロマンいっぱいだ。

 しかし、今回は奇しくも日帰り旅行である。搬入する次の日から展覧会が始まるのだが、その初日はどうしても東京に戻らなければならない。搬入だけして展覧会は一度も見ずに東京にとんぼ帰りしなければならないのだ。

 東京が私を呼んでいるのだ。

 「クミコさん、あの事故のことはもう忘れましょう。さあ、東京に戻って来て、また一からやりなおしましょう。彼もそれを望んでいるはずよ」


 そんなわけで日帰りなので、時間を無駄にはできない。新幹線で京都駅に着いたら、すぐさま美術館行きのバスに乗り、そのまま搬入に向かわねばならない。


 バスに乗って会場に〜。


 バスに乗って〜。


 バスに乗って〜。



 バスに乗って〜。




 バスは苦手なんだってば!!




 しかも、京都市営バスって。都営バスでさえ乗りこなせていないというのに、京都の市営バスなんて未知どころか別世界だ。四次元です。ミラクルです。 ミラクルワールド全開です。
 しかし仕方ないんです。展覧会の会場である京都市美術館に行くにはバスが最も便利なんです。とんぼ帰りという時間のないスケジュールの中では最も有効な手段で移動しなくてはならないのです。


 そこで、出発前にネットで京都市営バスについて調べまくり、路線図やバス乗り場の地図、時刻表などをプリントし、できる限り最大限の準備をして京都に向かいました。


 そんな準備万端で京都市営バスにのぞみましたが、それでも京都駅に着いたらこれから体験するであろうバスでの不安と緊張の時間を思い描くと平静ではいられません。見知らぬ土地の見知らぬバス乗り場に向かって歩く間も、京都市営バス攻略グッズである路線図、バス乗り場地図、時刻表をしっかり手にし、目的のバス停ひとつだけを目指して突き進みました。

 無事、美術館行きのバス停を発見し数分後にやってきたバスに乗り込みましたが、さっそくそこでも問題が発生です。


 なんと!人々は後ろのドアから乗っているのです。




 うかつでした。

 時刻表や路線図など、バスに乗ってからのことばかり考えていましたが、そもそものバスのシステムということを見逃していました。まさか、乗り方まで関西流にアレンジされているとは思いもしませんでした。
 しかし、たしかに今思えばそれはうなずけることだと思います。エスカレーターだって追い越しは関東と逆の左側通行なのですから、バスの乗車口も関東と同じだとは限らないのです。

 とりあえずここはどうにかして危機を免れなければならないので、前の人たちについて乗り込むことにしました。前の人が乗りこむ一部始終を一秒たりとも見逃さないよう、まばたきもせずにしっかり凝視していました。後ろに並ぶ人から舌打ちをされないようなスムーズな乗車ができるように全精力を集中しました。

ucti  ところが・・・。









 あれ?お金は払わないの??












column/nippon-auction.htmlBバスに乗り込む人々は誰もお金を払わずに乗車口を通貨していきます。たしかに、後方のドアから乗車しているので運転手のところで払うことはできませんが、それでも料金支払機のような機械があってもいいはずです。


 どういうことだ?これは。なぜみんな料金を払わずに乗ってしまうのか。まさか京都ではバスは無料なのか?いや、それはない。しっかりそこは事前に調べ済みだ。バス料金は200円であるということはこの頭にインプットされている。では、もしかして全員定期券を持っているのか?いや、そんなわけはない。それらしきものなど持っていなかったのをこの目ではっきりと確認した。では、いったい・・・。まさかあれか?あの最先端技術なのか?まさか京都市営バスは最先端である静脈認証システムを導入していて、定期券なしにセンサーで確認してるのか?いや、それもありえない。どこを探してもセンサーのようなものは見当たらないし、というよりどうみても最先端なバスとは程遠い。ということはいったい・・。










 ハッ!!!!!





 あれか!?




 あれなのか?












 料金後払いってやつか!?











 なるほど。考えたな、京都市営バスめ。後払いとは憎い演出だ。一瞬無料であるかと客を油断させ、ちょっとした得した感を感じさせておき、しかし最後にバーンって料金を支払わせる方法か。これも関西流ってわけか。商人気質ってやつか。商人ならではのシステムってわけか。やはり東の人間には西の風は強いのぉ〜。





 そう納得しながら無事バスに乗り込みましたが、そう、ここからが勝負です。ここから数十分、バスとの死闘が始まるのです。正しく目的のバス停で降りるために、一瞬も油断せずにアナウンスに集中し続けなければならないのです。

 そうです、アナウンスだけが頼りなんです。東京であれば、外の景色とアナウンスという二重の対策を施すわけですが、京都という見知らぬ街ではその手段も有効ではありません。頼りになるのはアナウンスのみです。手元に路線図を持ち、アナウンスされるバス停名と照らし合わせながら正確に目的地を把握しなければならないのです。


 座席に座り手には路線図、覆った髪は耳の後ろにかけ、頭の角度は少々斜めに傾け、無駄なくアナウンスの声を聞けるよう万全の構えで挑みました。



 「ご乗車ありがとうございます。このバスは三条京阪前、銀閣寺経由、岩倉操車場前行きです。次は烏丸七条〜、烏丸七条〜..」




 よし!完璧だ。バスも間違えなく乗れたようだし、アナウンスの声の質、鮮明さといい申し分ない。これでアナウンスと一緒に路線図を追っていけば問題なく目的地まで到着できるというわけだ。この数十分の間意識を集中し路線図と向き合うことができれば何も恐れることはない。