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| Chapter.04 未来オリンピック 2002.2.10 |
どうやら遠い海の向こう、アメリカでは冬季オリンピックなるものが開幕し、かなりの盛り上がりを見せているらしい。私はもともとオリンピックやワールドカップなどスポーツイベントにはさほど興味ないので、いつもならこうして他人事のように遠くから見守っている。しかし、今回は違う。
「お目当てのフィギュアスケート選手がいる」というのではなく、「ソルトレイクシティーに以前住んでいた」というのでもなく、「親戚のおじさんがアイスホッケーチームの監督をやっている」というのでもなく、「私が聖火リレーのランナーの1人に選ばれた」というのでもない。実は私がインフルエンザにかかってしまったからだ。インフルエンザだからってなぜ違うのかと言うと、家で安静していなければならないため、さすがにガンダムDXにもメイジナイト戦略研究にも飽き、いつもならわざわざ見ない開会式の生中継を観てしまったのである。しかもフルで。 |
| 開会式は演出や選手の衣装などけっこう興味があったので、これまでもニュースなどでは観ていたが、あくまでもニュースレベルのダイジェスト版である。そして今回もさほど期待はしていなかったが、そうはいってもアメリカである。アメリカといえばマクドナルドやディズニー、スパイク・ジョーンズ、メイジナイトを生み出した最先端エンターテイメント王国。そんなアメリカなだけに少なからず期待を寄せてしまうのは当然と言えよう。 |
しかしその期待も見事裏切られた。なんたる時代錯誤!このハイテク時代、アメリカの力を持ってすれば、金にもの言わせ、もっとハイレベルなテクノロジーを駆使したものができるはずなのに、自然やら伝統やら愛やら平和やら子供やら火の精やら、今までと一緒じゃないか。ユタ州だからとは言わせない。ケント・デリカットの出身地だからとは言わせない。アメリカはアメリカだ。ちゃんと米国ドルを通貨としているじゃないか。 テーマを根本から変えてみてはどうだろう。若者の支持を獲得するため、アウトローな路線で「ドラッグとセックス」(もちろん開会の宣誓はヴィンセント・ギャロ、日本選手団の旗手を務めるのは広末涼子が適任)、パリジェンヌ風にお洒落にまとめて「クリームブリュレのあるおいしい休日」(選手の入場曲はフレンチポップ、グラフィック全般は明度の高い2階調とパステルレインボーカラーが望ましい)、R&B風に「Orinpic 4 U feat.DJ Soul」(司会はジャ・ルールもしくはパフ・ダディーあたりでラップを織りまぜつつ。周囲には常に露出度の高い黒人美女たちが取り囲む)など。 |
| まあ、こんなのはどうでもいいのだが、とにかくその表現方法に問題があるのだ。まずこれまでによくあるパターンが、人間に自然を意識したさまざまなコスチュームを着せ、フィールドいっぱいに踊り、ついでに子供たちも登場し、みんなで協力して困難に立ち向かい、愛と平和を守るというもので、愛って素晴らしいね、というオチだ。 |
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面白くない!この誰にでも予想のつく展開はもううんざりだ。やはり何かあっと言わせるものが必要ではないか。CMもそうだ。ただ単においしいよ、おいしいよ、と唄っているだけでは、「そうか、おいしいのか」と思って買う人などいない。つうかおいしいのはあたりまえだ。まずいとわかっているものを莫大な経費を使って研究開発し、CMまで打ち出して売り出そうとするバカがどこにいる? |
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このように押し売りされたような直接的なものでなく、ちょっとした小技を使えば視聴者の心を惹き付けることができるのだ。オリンピック開会式も同じことが言えよう。そこで私が開会式を演出してみよう。その名も未来オリンピックである。 |
| まず会場には観客だけで何もない空間が広がっている。真っ暗で何も見えない空間に何万人もの観客はショーの始まりを待ちわびている。そこへ突如、数百人からなるヴァーチャル選手団の入場である。ポリゴンによって作られた3Dヴァーチャル選手たちは各々、競技のユニフォームを身にまとい、見かけはいたって人間そのものである。国旗はとりあえず「PS2」のロゴマークのものでも持たせておこう。そんなヴァーチャル選手たちが会場全体を競技空間に見立て、その空間いっぱいにポリゴンによるヴァーチャルオリンピックが始まる。 |
生身の人間とは違い、その運動能力も驚異的なもので、それだけで見ている観客を圧倒させるものがあるが、プレー自体もヴァーチャル空間で行うため無限の広がりが楽しめる。頭上を高々と飛び越えるスキーのジャンプ、観客席の間をぬって滑り抜けるボブスレー、空中で優雅に踊り、幻想的な空間が生み出されるフィギュアスケート。スノーボードのハーフパイプとなれば観客席の背もたれなどを使ってくるくる回る。アイスホッケーも例外でなく、FF10のブリッツボールばりに空間いっぱいに選手たちが飛び回り迫力満点の戦いが繰り広げられる。目の前で乱闘までも起こり、うまくすればその渦に巻き込まれ壮絶の乱闘疑似体験もできる。もちろんヴァーチャルなので実際に怪我をすることはない。 |
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「レディース&ジェントルマン!町全域が停電になってしまいました!従ってお楽しみ中のみなさんには申し訳ないが、開会式はこれで終了といたします。こおからは自家発電により競技のほうを開始いたしますのでそちらをお楽しみください。みんなの盛り上がりの熱さで機械も熱をあげちゃったようだね。」 |
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アメリカンジョークも大爆笑の渦を巻き起こしたところで、満足そうに市長が去ったあと、会場は自家発電によって申し訳程度に照らされ、各国の選手団が入場してくる。用意しておいた音楽も停電により流せないので、選手たちは自ら歌を歌いながらの入場である。もちろん歌はその国々の伝統的なものを歌う。日本だったらやはり「上を向いて歩こう」か「365歩のマーチ」あたりか。オーストリアやスイスくらいなら素敵なハモリも飛び出てくるかもしれない。贅沢言えばロシアにはコサックで登場してほしいところだ。中国は自転車の使用も許可するが、5人乗り以上は禁止。 |
| しかし、どの国も好き放題歌うので、観客に聞こえてくるものは歌というより、遠吠えに近い。 |
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競技はまずスピードスケートから始まるが、電光掲示板なども使えないためタイムや着順などは審判が大きな声で叫ぶ。スタッフは結果をボードに書き、それを持って観客席の前を走って知らせる。観客たちはそれを見のがさないよう、テニスのラリーを見ているように、必死に目で追う。 |
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BGMの鳴らない静まり返った薄暗い会場内には人々の話し声と必死に叫ぶ声、それに氷を滑走する音など、まさに生音のみが響き渡る。始めはそんな状態に観客たちも混乱し動揺していたが、そのリアルな感覚に快感を覚えはじめ、次第に引き込まれていく。 |
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そして人々が口々に呟きだす。「人間って素敵だ…」と。それから自然や伝統や愛や平和や子供や火の精の素晴らしさをここで初めて実感するのである。 |
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どうでしょう、トリノの市長。これを次のトリノオリンピックに使ってみては。演出代は相談に応じます。 |
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あ、日本円でお願いします。 |